『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』(ジョー・ダンテ/1993)

マチネー/土曜の午後はキッスで始まる [DVD]

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今までのことやこれからの不幸を承知したうえで子供のために出頭、帰ってくるなら、それでいいじゃないかと、酒井法子さんの事件を同情的に見ていました。本当にダメな親かどうかは子供が決めることで他人がとやかく言うことじゃない。背景に何があろうと、とりあえず無事に帰って来てよかったじゃん。もっとも奥さんや子供を守ろうともしなかった旦那には一切の同情はできません。


 ――閑話休題――



ジョナサン・ローゼンバウムの日記を受けて未見の『マチネー』をDVDで。ヒッチコックの『サイコ』にも影響を与えたというギミック好きの興行師/映画作家ウィリアム・キャッスルを下敷きにした作品。これはティム・バートンの『エド・ウッド』と双璧の傑作でした。キューバ危機による全面的核戦争への不安、デッドエンド感に、いかがわしいホラー映画、50'sのスウィートなポップミュージックの組み合わせ(「エンド・オブ・ザ・ワールド」も流れる!ナンシー・シナトラのヴァージョンではないけど)という時点で、甘美極まりない。ノックアウトです。


『マント/恐怖の原子蟻人間』という劇内映画(DVDにはこれ単体の特典映像が収められています。蟻が巨大化して人類と戦うというキュートな作品。「DDT爆弾発射!」には笑った。他、楽しそうにツイストする男女を映すスクリーンが破れて蟻男が登場するシーンとか素晴らしい!)の恐怖を煽るシーンで映画館の椅子に電気を流すとか、蟻人間のキグルミを着た男が劇場で暴れまわるとか、ウィリアム・キャッスルの仕掛けた体験型映画のいかがわしさが炸裂する。とても粋だなと思うのは、核戦争が迫る中、こんな映画は「不謹慎だ」と非難する人たちに向けて、ジョン・グッドマンが、こんな絶好のシチュエーションはないと、世界の終わりとホラー映画の組み合わせの甘美さをアピールするシーン。映画館内の核シェルターに閉じ込められた少年少女が、世界の終わりに初めてキスを交わすシーンの甘美さよ!世の中が厳しいときだからこそ、映画を見ている場合なのだ、音楽を聴いている場合なのだ、キスを交わしている場合なのだ、と肝に命じたい。「誘拐され首まで埋められてピストルを突きつけられようとギャグを。」(菊地成孔)ですよ。黙示録的な未来の予告編。世界に平穏が訪れた後、幸福な浜辺へと駆け抜ける少年少女は戦闘機を仰ぎ見る。ジョン・グッドマンが少年に投げかける台詞が素晴らしい。


「大人が偉いと思っているのかい?子供と同じで何も分かっちゃいないのさ。」


ジョナサン・ローゼンバウムの記事「War Fever on MATINEE」は以下↓
http://www.jonathanrosenbaum.com/?p=7134
ウィリアム・キャッスルについては以下のサイトに詳しい。↓
http://angeleyes.dee.cc/william_castle/William_Castle.html