ホセ・ルイス・ゲリンの「短編」


輸入DVDでホセ・ルイス・ゲリン祭り最終日。最後に紹介するのはDVD−BOX付属の特典ディスク。特典映像だからといって舐めてかかったのが大間違い。これらの作品、imdbを見ても正式には「短編」扱いされてないようだけど光の乱反射に目が眩む傑作ぞろいでした。とりわけ面白かったものを以下にメモ。ピラール・ロペス・デ・アジャラの笑顔!!


・『En la ciudad de Lotte』

こちらは「ロッテのいる街で」(6分)。『シルヴィアのいる街での写真』と同じくモノクロームの美しい連続写真で構成された作品。お婆ちゃんを映しながら「ロッテ?」と字幕が入るところが可笑しい。ここで失われた女性の肖像は、影としてくりぬかれた顔、さらにその影の顔が絵の中に入り込んでいたり、未完成の女神像と対峙する女性、果ては街の落書きに記されたイニシャル、といった手掛かりとして現れる。『シルヴィアのいる街での写真』の番外編なのですがこれ単体で眩い傑作。


・『Mujeres esperando el tranvia』
これでもかと窓ガラスの反射の多様なヴァリエーションだけで魅せる作品。路面電車の窓ガラスに映る街の建築物が魚眼レンズのようにぐにゃりと曲がっては元の形に戻ったり(というのが数秒の間に繰り返される)、窓ガラスへの街行く人々の映りこみが2重3重と複雑に重なっていくので、こちらの世界の焦点が一体何処にあるのか分からなくなる。さらにバスの窓などがカメラの前を移動すると万華鏡を覗いてるかのような蜃気楼を見るかのようなアナザーワールドが現出する。スゴイ!


・『Apuntes para un retrato』(アベル・ガルシア・ルール)

「ゲリン自作を語る」といった趣きのドキュメンタリー。自宅と思しき機材部屋でフィルムを編集しているゲリン。画像は『影の列車』の二つの映像を重ね合わすところ。撮影に行ったまま行方不明になった男の残したフィルム。私たちが対峙するこの肖像は亡霊、しかも「時間」という未だ解き明かせない亡霊なのだと思う。非常に興味深いです。


・『Las mujeres que no conocemos』

こちらは「ホセ・ルイス・ゲリン展」をDVD用に収録した感じでしょうか(逆かもしれない)。Youtubeにアップされてるやつと音楽も一緒です。分割された画像が少しずつ動く、その一個一個が消えていってバイオリンの演奏が残るところが素晴らしい。演奏が聴こえる!


ゲリンの作品は『ベルタのモチーフ』(1985)『City Life』(1990)他、短編多数とまだまだ見ることのできないフィルムがあるわけですが、ここまで見てきて、未知の洗練と前衛とが一本の作品/時間の中で互いに火花を散らし合うような方向にゲリン作品は向かっているような印象を受けます。ゲリンの映画には映写機のカタカタ音が似合う。窓ガラスの乱反射にしても、それがフィルムの1コマ1コマが光に投影されていく装置(映写機→スクリーン)そのもののメタファーになっている。個人的に一番衝撃的だったのは『影の列車』ですね。


以下短編『Souvenir』と「ホセ・ルイス・ゲリン展」の様子を貼っておきます。