『三重スパイ』(エリック・ロメール/2003)


「フランス映画の秘宝」にて。スゴイ。こういう深い驚きと深い溜息で満たされたいがために、いそいそと映画館に向かうのだよなぁ、というなんだか基本的なこと/ワクワク感を思い出し、心の中でスタンディングオーベイション。多幸感に襲われ、結果、打ちひしがれる(いまだに)。


ランプシェードによる間接照明が極めて味わい深い色調(やや茶色がかった)を演出しているアパルトマンの風景。アパルトマンの螺旋階段を昇る紳士淑女たち(メインとなる夫婦と隣人夫婦は同じアパルトマンの上下階に住んでいる)の魅惑的な移動。ニュース映像が伝える外部の世界と戦渦に呑み込まれる夫婦。妻の描く絵。ピカソゲルニカ。外部の世界は夫婦による会話の積み重ねによって具体化される/「会話=映像」というロメールの発明が極限にまで突き詰められたような。そして旦那(将校。大変頭のキレる魅惑的な人物)がパリの夜の闇へと消えていく一連の流れ。周到に用意されたかのような停電と、ライターの灯でアパルトマンの廊下を彷徨う上司たち。悲劇を一気に喜劇化するエレガントの極みといってよいラスト。今年見た映画の中でも最上級の作品です。すごいぞ、ロメール


追記*会場に井口奈己監督がいらっしゃいました。