『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』(ホウ・シャオシェン/2007)


実のところ今日一番感激を伝えたいのはこの作品。これなら6時間あってもいいヨと思えるほどに、とにかく映画が終わってしまうことを認めたくなく、ラストは幸せすぎて泣いてしまいました。至福の映画体験。ホウ・シャオシェンはパリで撮ったってホウ・シャオシェンのままなのだねー。ラモリスの『赤い風船』と比べると、ここでの”まるで生き物みたいな”風船は明確な意思を持っていないかのように曖昧な眼差しで下界を見下ろしている/空中をたゆたっている。何しろカメラにぶつかってくるくらいで。この「たゆたう」感じがホウさんリーさんの仕事と相性抜群なのだ。カメラと役者とそれぞれの位置振る舞い何もかもの距離感がいい。


携帯電話の使い方がかなり面白い。電話の向こう側の人間とかなり激しい口論になろうと、周りにいる人たちは特にそれを気に留めるでもなく、ましてや干渉なぞせずに、自らのやるべき仕事に徹している。その様子をカメラがゆっくりと一人一人を捉えていく、という。ジュリエット・ビノシュだけが明らかに違うメソッドで演技をしていて(他の役者陣は演技を排除する演技をしているように見える)、ホウ・シャオシェン映画らしくない演技なのだけど、それも凄くよい。それぞれの距離感がより際立つというか。何しろどんな大きな怒りさえも周りのクール(しかし冷徹なわけではない)に吸収され、それぞれがするべきそれぞれの仕事へと自然に回帰していくという。ジュリエット・ビノシュはじめ、映画が終わってもこの人たちはこういう風に今も生きてるんだろうなって思わせるマジックも素晴らしい。つまるところスナフキンのように、一人で生きていくこともできながら他人ともしっかり絆を結べてしまう頼もしい映画。この映画のカメラのような距離感で生きてゆきたい、と心から思った。暇さえあればいつも見ていたい作品です。そしてすべてのカットが好きだ。


乾杯!君と僕の赤い風船に
乾杯!君の幸せを願うよ


http://ballon.cinemacafe.net/rb/