『家路』(マノエル・ド・オリヴェイラ/01’仏=ポルトガル)

『家路』が好きなのはとりわけラストの少年と階段(天国への?)
なのだけど、『夜顔』でも一瞬こんな作りでいいのかしら?と思わ
せる空絵の挿入が、別段なんでもないにも関わらずすごく魅力
的で(しかし『夜顔』のパリを照らす灯りは再会を不気味に祝う
灯火だろうか、会食での蝋燭とイメージが重なる。なんにしても
魅力的だ)『家路』の夜/昼の観覧車、とりわけタクシーの窓から覗く
観覧車におけるカメラの透明度に、なんともいえない幸福感を覚える。


透明といえば頻繁に出てくるショップやカフェのウィンドウ越しに
ミシェル・ピコリと誰かがする会話(こちら側には何も聞こえない)
は、仕草でなんとなく判断できるものの、いきなりサイレント映画
世界に連れて来られたような楽しさに満ちていて、手回しオルゴール
で歌う街頭芸人のシーンに至っては、伴奏付きサイレント映画上映会
さながら、窓を隔てたカメラの透かしが映画を二重に体験しているか
のようだ。また、繰り返される朝のピコリと少年の風景に小津の反復
とズレを思い出す。そういえば小津シンポジウムにオリヴェイラも参加
してたよね。参加者/執筆者があまりにも超豪華な良書です。