2018年ベストシネマ
あけましておめでとうございます。2018年は個人的に変わらなきゃと思って、自分を変えてみることを試みた一年でした。新しい一歩を踏み出した&その準備をした一年。これをベースにどんどん自分を変えていけたらなと思います。さて、年間ベスト。一位に挙げた作品は、魔法のような奇跡のラストと言われているけれど、親友の下したその時のその美しい決断が、どうやっても逃れられない悔しさを涙まじりの楽しさへと全力で振り切ってしまうという意味において、2018年最大の爆発でした。どうにもならないことに対する悔し涙の疾走。自分を変えてみたいと思った今年の決意とも完全に同調した。2018年は「こども映画」の秀作がたくさん公開された年だけど、この作品が成し遂げたことは他とは比較にならない。今年のベスト1はこの映画以外にはありえなかった。何より大切なことは、私の心がこの子たちと共にある、ということです。
1.『フロリダ・プロジェクト』(ショーン・ベイカー)
The Florida Project / Sean Baker
2.『犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン)
The Isle Of Dogs / Wes Anderson
3.『アンダー・ザ・シルバー・レイク』(デヴィッド・ロバート・ミッチェル)
Under The Silver Lake / David Robert Mitchell
4.『バルバラ セーヌの黒いバラ』(マチュー・アマルリック)
BARBARA / Mathieu Amalric
5.『マチルド 翼を広げ』(ノエミ・ルヴォウスキ)
Demain et tous les autres / Noemi Lvovsky
6.『ファントム・スレッド』(ポール・トーマス・アンダーソン)
Phantom Thread / Paul Thomas Anderson
Asako ⅰ& ⅱ / Ryusuke Hamaguchi
Lady Bird / Greta Gerwig
9.『Un Couteau dans le Coeur』ヤン・ゴンザレス
Un Couteau dans le coeur / Yann Gonzalez
Liz and The Blue Bird / Naoko Yamada
例年20本挙げていますが、今年は敢えて10本。デヴィッド・ロウリーのとびきり美しい『A Ghost Story』、同じくかけがえのないカルラ・シモン『悲しみに、こんにちは』は昨年のベストに入れたので対象外にしました。昨年のベストリストは以下に。
映画についても他の何についても何が正しいのか誰も分からない時代です。こういうときこそどこかで聞いたような調子のよい言葉ではなく、自分の言葉で綴っている言葉を信じたいなと思います。知識の広い狭いの話ではなく、それぞれのパーソナルな映画史というものは誰にでもあって、それが重なったり重ならなかったりするのが面白いのだと思います。だから若い方や映画に興味を持ち始めたばかりの方には、大文字の映画史や発言力のある(とされる)誰かが作った映画史なんてどうでもよいから、まずは自分の映画史を作っていくのがいいんじゃないかと思います。人の地図と人の地図がまさかのタイミングで重なり合うところ。ウェス・アンダーソンの作品が教えてくれるのは、そういうことです。みなさまにとって2019年が実りある一年になりますように。2019年もよろしくお願いします。
『犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン/2018)
「友達にはなれないけど、大好きだ」(スポッツ)
『犬ヶ島』において、少年アタリとボディーガード犬スポッツ、そして新たな相棒犬チーフはいまにも泣き出しそうな瞳をスクリーンに何度も浮かべる。口笛による木霊が人と犬の交感(この木霊は開巻早々、劇中にサラウンドする)を言葉以上に響かせる、否、震わせるとき。翻訳トランシーバーによってお互いの言葉が通じ合うとき。決まって彼らの瞳は涙で潤んでいる。そこにはお互いに友達にはなれないけど、大好きであることを伝えたい原始的な感情と感動が、涙という表象言語として、言葉以上にお互いを震わせている。その意味において、小林市長が繰り返す上っ面な「リスペクト」という言葉が、やがて色彩を得ていくのは感動的だ。『犬ヶ島』は、口笛による木霊の反響、メロディーの反復=お互いの共感に至る過程の間に生まれ、そこで振るい落とされてしまったものを再び拾い集める。
Megasaki City - Isle of Dogs
Tokyo Imperial Hotel - Frank Lloyd Wright
『犬ヶ島』のプロダクション・デザインを手掛けたポール・ハロッドはインタビューの中でフランク・ロイド・ライト(メガ崎御霊神社は旧帝国ホテル本館をモデルにしている✳画像参照)の他に、日本のメタボリズム建築から強い影響を受けたことを語っている。日本の高度経済成長期に華開き、大阪万博で頂点を迎えたメタボリズム建築と『犬ヶ島』で設定された「現在=過去から見た未来」という時代設定の幸福な出会い。メタボリストたちの唱えた建築の「有機性」の定義はそれぞれだが、その定義を都市の成長、生命の成長に適合する建築、未来との共生を志向する建築と捉えたとき、『犬ヶ島』の志向する「有機性」と重なり合っていく。黒澤明『どですかでん』〜高度経済成長期の夢の島をモデルにしたと思われるゴミ島に犬が隔離されるのは、未来を排除によってデザインしようとした(都会の増えつづけるゴミを夢の島に廃棄したように)政治と重なる。犬は都市計画という未来(しかし未来とは現在のことだ)から排除されてしまったのだ。このゴミ島が、かつて未来をデザインするために計画され失敗した島であることに注視したい。ウェス・アンダーソンは失敗を失敗で上塗りしていく歴史に待ったをかける。スクラップされた瓦礫の山から始めるゼロ地点からのスタートではなく、それさえ含んだ過去現在未来を共生させる都市計画として『犬ヶ島』をデザインする。振るい落とされたものを再び拾い集め、共生する未来を描く、という選択。
Dodesukaden - Akira Kurosawa
Isle of Dogs
『ムーンライズ・キングダム』〜『グランド・ブダペスト・ホテル』において、現れてはすぐに消えてしまう幻影として記憶を留めた(故に美しい)ウェス・アンダーソンは、『犬ヶ島』でついに記憶を未来と共生させる。劇中、スポッツが父親になるという未来を選んだように、ここにはウェス・アンダーソン自身が父親になったことも大きく影響しているのかもしれない。個人的にはスポッツの台詞/選択は本作で一番感動したシーンだ。スポッツとチーフの鏡像関係が分割画面、加えて、モニターによる分裂画面とでも言いたくなるような展開が巻き起こるアクション、その速度は、あまりに痛快だ。こういった部分にも、全てを同じ画面で共生させようとするウェス・アンダーソンの未来への計画が読み取れるかもしれない。マスタープランからポスト・マスタープランへ。ウェス・アンダーソンのネクストは、幻影を幻影と呼ばせない。そこには新しい未来=現状への覚悟がある。分かりあえない者同士が原始的な感情だけを頼りに分かりあえないまま画面に共生する。『犬ヶ島』はハードボイルドな輪郭を持った未来的建築物なのだ。大傑作。
追記✳ウェス・アンダーソン『犬ヶ島』とショーン・ベイカー『フロリダ・プロジェクト』、トッド・ヘインズ『ワンダーストラック』という2018年を代表する傑作群は個人的には「ジオラマ」というキーワードで繋がっている。最終的にジャック・タチの偉大なる『プレイタイム』を見直した。
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2015/02/25
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (4件) を見る
追記2✳ウェス・アンダーソンの娘さんの名前は、フランク・ボーゼージ『死の嵐』(1940)のヒロイン、フレヤからとったとのこと。『チャップリンの独裁者』以前に公開されたこの反ナチス映画の傑作のヒロインにウェスが惹かれているということに妄想が広がります。
- 発売日: 2016/03/02
- メディア: DVD
- この商品を含むブログ (1件) を見る
追記3✳参考のために見た大阪万博の残された映像は完全にロマンティックな狂い方だと思った(笑)。もうホント狂ってる。ドキュメンタリーが見たい。そしてこのメタボリズムに関する本は面白すぎます。夢中になって読んだ。
- 作者: レムコールハース,ハンスウルリッヒオブリスト,太田佳代子,ジェームスウェストコット,イルマブーム
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2012/02/25
- メディア: 大型本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
追記4✳ポール・ハロッドのインタビューはこちら。
https://www.dezeen.com/2018/03/28/wes-anderson-isle-of-dogs-sets-metabolist-architecture-paul-harrod-interview/
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2010/02/19
- メディア: Blu-ray
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (3件) を見る