2017年ベストシネマ


新年あけましておめでとうございます。さて、2017年は松本俊夫特集上映のパンフレットに書かかせていただいたことがホントに幸せで、自分が書いたことは必ず自分に返ってくることを知る、その跳ね返りの繰り返しの中にいることが喜びでした。何よりそれこそが松本俊夫の映画だよね、と。文章どうこうの話ではなく、これからの日常レベルで自分が成長できる経験だったと思います。とても楽しい一年でした。2016年のベスト1に選んだベルトラン・ボネロ『ノクトラマ』が未だ公開されてないことは寂しいかぎりですが。というわけで以下に2017年のリスト。


1.『ベイビー・ドライバー』(エドガー・ライト
Baby Driver/Edger Wright


2.『バンコクナイツ』(富田克也
Bankoknites/Katsuya Tomita


3.『20センチュリー・ウーマン』(マイク・ミルズ
20th Century Women/Mike Mills


4.『ゴースト・ストーリー』(デヴィッド・ロウリー)
A Ghost Story/David Lawrey


5.『マリアンヌ』(ロバート・ゼメキス
Allied/Robert Zemeckis


6.『ノクターナル・アニマルズ』(トム・フォード
Nocturnal Animals/Tom Ford


7.『ロスト・シティ・オブ・Z』(ジェームズ・グレイ
The Lost City Of Z/James Grey


8.『パターソン』(ジム・ジャームッシュ
Paterson/Jim Jarmusch


9.『散歩する侵略者』/『予兆 散歩する侵略者』(黒沢清
Before We Vanish/Kiyoshi Kurosawa


10『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン
Dunkirk/Christpher Nolan


11.『John From』(Joao Nicolau)
John From/Joao Nicolau


12.『Logan/ローガン』(ジェームズ・マンゴールド
Logan/James Mangold


13.『Summer 1993』(カーラ・サイモン)
Summer 1993/Carla Simon


14.『Chez Nous』(リュカ・ベルヴォー)
Chez Nouz/Lucas Belvaux


15.『婚約者の友人』(フランソワ・オゾン
Frantz/Francois Ozon


16.『南瓜とマヨネーズ』(冨永昌敬
Pumpkin and Mayonnaise/Masataka Tominaga


17.『ルイ14世の死』(アルベルト・セラ
La Mort de Louis XIV/Albert Serra


18.『ブレードランナー 2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ
Blade Runner 2049/Denis Villeneuve


19.『ラ・ラ・ランド』(デイミアン・チャゼル
La La Land/Damien Chazelle


20.『ダーク・ナイト』(ティム・サットン)
Dark Night/Tim Sutton


1位は合計4回も映画館に駆けつけてしまった『ベイビー・ドライバー』。ロマンチック!に尽きる。2位も3時間超えの長尺にも関わらず連続で見てしまった『バンコクナイツ』。富田監督は体で映画を撮ることで表面的な原理を超え、本当の意味で映画の原理に接近し得たのだと思う。こんなにスケールの大きな日本映画は他のどこにもない。賛否分かれる『ラ・ラ・ランド』は、「アナザー・デイ・オブ・サン」が突き抜けて素晴らしい楽曲なので、もうそれだけでオーケー。どれだけ繰り返し聴いたことか。何よりこんなに始まる前にドキドキが止まらなかった映画は久しぶりだった。



Planetarium/Rebecca Zlotowski

Reparer les Vivants/Katell Quillevere
他、『ジャッキー』(パブロ・ラライン)、『あさがくるまえに』(カテル・キレヴィレ)、『プラネタリウム』(レベッカ・ズロトヴスキ)が強く心に刻まれた作品。『あさがくるまえに』の若い恋人たちの出会いのシーンは今年一好きかもしれない。『プラネタリウム』のリリー・ローズ・デップという特別な女優の誕生をナタリー・ポートマンが仕掛けた、というエピソードは今後語り継がれることでしょう。どれも大好きな作品です。『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ティム・バートン)と『ネオン・デーモン』(ニコラス・ウィンディング・レフン)は昨年のリストに入れたので対象外にしました。見逃した作品で後悔してるは『ネルーダ』(パブロ・ラライン)、『女神の見えざる手』(ジョン・マッデン)。絶対入れたかった『ツイン・ピークス The Return』(デヴィッド・リンチ)、『ストレンジャー・シングス シーズン2』(ダフィー兄弟)は、まだ全部見れてないのです。昨年のリストは以下に。


http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20170102#p1


未公開の作品の補足。『ゴースト・ストーリー』はヴァージニア・ウルフの言葉に導かれる極めて美しい作品。予想通りルーニー・マーラの快進撃はここでも止まらない。そしてデヴィッド・ロウリー、映画作家としてめちゃくちゃ攻めてます。ジェームズ・グレイ渾身の傑作『ロスト・シティ・オブ・Z』とこれは公開されるでしょう。Joao Nicolauはミゲル・ゴメス『自分に見合った顔』に出演、同じくミゲル・ゴメスの素晴らしい『贖罪』の編集に関わった経歴の持ち主。女の子の撮り方を少し見ただけでだけで、この作家に興味が持てるはず。カーラ・サイモン『Summer 1993』は徹底した自然主義の撮影で、少女の「言葉以前の言葉」が捉えられる。感情が言葉として整理される前の状態について考えさせられる上に、胸を打つ。リュカ・デルヴォーの『Chez Nous』は、『BPM』(ロバン・カンピヨ)と共に、あるいはそこにベルトラン・ボネロ『ノクトラマ』を加えてもいいのだけど、三者三様のポリティカルな運動の背景を思う。つまり現在の映画。『ダーク・ナイト』は賛否両論の作品。ガス・ヴァン・サント『エレファント』の素晴らしさがこの作品の評価を難しくする。ガス・ヴァン・サントはカラカラに渇いてるようで、もっとウェット。ティム・サットンは極めてドライ。前作『メンフィス』の霊歌としてのソウルが、ここでもアメリカの空に反響しているように思う。ティム・サットンはアメリカという霊歌の作家。


そして今年最大のハイライトは青山真治監督&宮崎あおいトーク付きで『ユリイカ』に再会できたことです。ちょっとこの特別な体験は自分の中で大切すぎて語れない。『ユリイカ』のバスの旅と、『ユリイカ』を初めて見たとき以降の自分の人生の旅が、スクリーンという共有体験の時間の中でゆっくりと重なっていく、そんな体験でした。涙が止まらなかった。この作品の上映を選んでくれた宮崎あおいに感謝。ご結婚おめでとうございます。




Eureka/Shinji Aoyama

筒井武文『映像の発見=松本俊夫の時代』パンフレット



先週末よりイメージフォーラムで上映中の『松本俊夫 ロゴスとカオスのはざまで/映像の発見=松本俊夫の時代』のパンフレットに5作品の論考を寄稿させていただきました。素晴らしい作品はどの時代、どの年齢で見たって、その価値は普遍である。ということを大前提として言いますが、それでも『薔薇の葬列』をはじめ、松本俊夫の作品群を20歳くらいのときに体験できたことは心から幸福なことだったと思っています。松本俊夫を知らない人生なんて、ちょっと考えられないくらいに。今回原稿を書くにあたって劇映画全作品と可能な限りの実験映画を再見しましたが、20歳くらいの頃に受けた鮮烈な体験が、というより、そことの距離こそが「発見」として真新しい強度を帯びていくのが分かりました。松本俊夫の作品に触れるということは、そういうことなんだよ。常に変容と共にある。と同時に、松本俊夫の作品を語ることの難しさも痛感しながら。松本俊夫という巨大な「像」を前に、筒井監督が途方に暮れてしまった、と語る気持ちが痛いほどわかるというか。手に負えない感、凄いです(笑)。でもこういう作品群だからこそ、20歳くらいの頃に夢中になる必要があると心から思います。自分がそうであったように感じてくれたなら嬉しいです。『薔薇の葬列』で引用されるボードレールの詩を引用するなら「我、傷口にして刃 いけにえにして刑吏」。『薔薇の葬列』の中で、作品から受ける衝撃の中で、やがて歳を重ねていく過程で、それがどう変容していくかは、若い頃に体験していなければ決して分からない。余談ですが、原稿を書いている途中、東京国際映画祭で『ユリイカ』を青山真治監督と宮崎あおいトーク付きで体験できたのは、2017年最大のハイライトでした。ちょうど松本俊夫の作品に夢中になっていた頃、完璧にやられてしまった映画。宮崎あおいは涙が止まらなかったそうですが、自分も涙が止まらなかったです。何かの巡り合わせだと感じました。人生はうまくできています。




パンフレットに掲載させていただいた論考は5本。書くために仮のタイトルを作ったのですが、そこまで採用してくれてありがとうございます。


・「少年の幻視した時代」(筒井武文『映像の発見=松本俊夫の時代』論)
・「記憶/記録の増大」(松本俊夫『修羅』論)
・「モナ・リザとパンチドランク」(松本俊夫十六歳の戦争』論)
・「記録映画のエモーション」(松本俊夫西陣』論)
・「発光体としての映画」(松本俊夫『つぶれかかった右眼のために』論)


松本俊夫の作品に関しては解説を、ということでしたが、好きに書いていいとのことですべて論考のつもりで書きました。この160頁にも及ぶパンフレットはプロデューサーの羽田野直子さんのやりたい放題が結実した、わがままサイズの素晴らしいパンフレットです。こんな贅沢な試みがこの時代に出来るということは驚きでしかない。筒井監督と宇川直宏さん(宇川さんの語り、好きなんです。菊地成孔さんの語りと共に昔から大ファンです)、中原昌也さんの対談がボリュームたっぷり読めるという。それでいて、『映像の発見=松本俊夫の時代』という700分超えの作品、及び、松本俊夫の全体像をサポートする決定版、家宝版と言っていいでしょう。自分が関わっているとか関係なく、松本俊夫のファンとしてとても興奮しています。そして何より松本俊夫の作品群と『映像の発見=松本俊夫の時代』を見てほしい。偉大な才能を知ること以上に、一生に渡って関わっていく問いそのものがそこにはあるから。自分も生涯に渡って追いかけていきたいなと思いました。追いかけても追いつけない悦びというかね。思えば松本俊夫の残した作品自体が、そういった非決定性の連続で出来ているんじゃないかと思います。安心よりも絶えず揺さぶられること、心をかき乱されることを望んで選ぶすべての同志へ。選択とは強い意思のことです。


原稿を書く機会を与えてくださったことにこの場を借りてお礼させてください。ありがとうございました。




追記*『映像の発見=松本俊夫の時代』に出てくる記録映画『春を呼ぶ子ら』はホントぶっ飛びますよ。