『麻薬3号』(古川卓巳/1958)

この作品ヤバイです。まさかこんなに素晴らしいとは。神戸ロケの素晴らしい撮影と人物が斜めに移動するカットインとでもいうべき編集がキレてる。薬を打って即正気のまま走り出すなんて筋が合わない、なんてことは問わない(集団で薬を打つ闇のアジトが危険だ)。チンピラの長門裕之の立ち居振舞い台詞回しすべてが痛快。薬を止める南田洋子に往復ビンタを喰らわせるシーンに痺れた。ビンタからキスに到る古典的にして情熱の嵐を裂くが如き絶妙な間。対する南田洋子の言葉を介さないキスによる説得。


しくじった長門裕之が組長に刃物で手の甲を貫通され、その上から酒を浴びせた上で呑めと命令するシーン、及び、組長の女を撃つシーン、女の足に素人が手術を施すシーン、犯罪映画としての危険な陰影が急激に浮かび上がる。警察の目を欺く為、車の修理のフリをして車底に二人で潜り込み取引を交わすシーン、そして長門裕之が堅気になるため意を決して脱出を図るシーン、「昼間からハジキなんざ物騒だ」と海岸での素手による肉弾戦が行なわれる。大きな波に巻き込まれながらずぶ濡れになって体力の限界まで死闘は続く。そして泣きの空砲。


死を待つ南田洋子が何も伝えずにただ「教会に行きたい」と長門裕之に請うシーンで涙がこぼれる。教会、悲劇に集まる人の群れ。神戸の街に鐘の音が鳴り響く。すんごい傑作じゃないか!何処かでまた上映してほしい!