『血を吸うカメラ』(マイケル・パウエル/1960)


家でパウエル=プレスバーガーの傑作を2本。カメラで女性を撮るという行為が恐怖と官能を同時に誘発し、極めて肉感的な恍惚/昇天現象に到るという、ある意味バタイユ的な。殺人の恐怖に怯える女性の顔、その決定的瞬間(殺された女性は恐怖により変形された顔として発見される)をカメラに収めたい主人公。彼の凶器は三脚に仕込まれたナイフ。ヒロインの母(盲人)にその危険な性癖を見抜かれてしまった彼は、カメラを手に彼女を殺そうとするも失敗に終わる。相手と見る=見られるの関係を築けない限り「血を吸うカメラ」は成立しないのだ。主人公のこの特異な殺人を考える上で、女優の卵を殺す場面で彼女が放つ「カメラの前に立つと孤独だわ」という台詞はとても興味深い。カメラと被写体の危うい関係。映画そのものに密接した映画といえるでしょう。そしてそしてなにより!彼女が「体をならすわ」と踊るダンス(音楽はコンガが乱れ打ちの危険なラテンジャズ)の炸裂ぶりが極上。死を前にした享楽的官能のダンス。


ところで幼少時に父が撮ったというホームムービーの中で少年に不思議な光が当たるところは本当に怖い。この私家版フィルムに出てくる少年はマイケル・パウエルの息子さんで、父役はパウエル監督ご本人なんだそうな。あと、これは余談ですがこの映画の主人公が制作中の作品はジョン・カーペンターが『世界の終り』(傑作!)の中で「その映画を見た者は死ぬ」と探していた幻の作品なんじゃないか、と妄想した。