『アイム・ノット・ゼア』(トッド・ヘインズ/07’)

6人の俳優が6通りのボブ・ディランを演じるという、よほど頭の良い監督でない限り支離滅裂になってしまいそうなコンセプトも、離れ離れになったパズルのピースを合わせるかのごとく巧妙に纏められている。列車で始まり列車で終わる(黒人少年→リチャード・ギア)シンメトリーな語りも秀逸。そして評判通りケイト・ブランシェット、激カッコよい。彼女(彼)がロンドンでの公演の際、客席から「ユダ(裏切り者)!」と罵られる場面は強く印象に残る。またウディ・ガスリーを名乗る黒人少年(トークがマセてて最高)がリッチー・ヘブンス(本人)とギターで共演するとことか、泣ける。随時挿入される回想インタビュー(ジュリアン・ムーア!)も含め「編集の映画」といってしまったら、それまでかもしれないし、受け入れられない編集もあるにはあるのだが、そう片付けてしまうには惜しい、夢幻のイメージがちらほら。中でも出色は棺桶に花飾りで入れられた少女(死体)を柱に立て掛けて、その横でボディーペイントしたバンドが「Going to Acapuluco」を演奏する場面(演奏はCalexico)。