『ラスト、コーション 色/戒』(アン・リー/07’中国)

ラスト、コーション』と『動物、動物たち』を見る。


日本占領下の中国を舞台にしているものの、映画の作りだけでなく、その風景までもが、むしろアメリカ映画を感じさせる意図的なフェイクっぷりは、雰囲気としてのフィルムノワール(なにしろスパイ映画なのだ)を十分に堪能させてくれる。オーディションで選ばれたという新人タン・ウェイは、なるほど評判以上の存在感で、なにしろお相手は世界でも屈指の俳優トニー・レオンなのだから、この二人をいつまでも見ていたいと、集中を切らすことなく最後まで夢中にさせられた。何度も繰り返される雀卓を囲んだ4人の女のクロストーク(貴婦人たちは社交として麻雀を嗜む)も、すごく巧いなぁと感心してしまうし、アン・リーという監督はこちらがハッとするようなショットも器用に撮れてしまう人で、そこらへんも含めた評価が彼を世界的映画祭キラーにしているのだろうし、おそらくこの映画を見たほとんどの人も程度の差こそあれ、それなりに満足して映画館を跡にするのではないかと思う。


でも、やっぱ官能が足りないよ、もっと官能をくれ、と思わざるを得ない。


トニー・レオンタン・ウェイが初めて体を交わし合う場面での突発性は、それはもうグッとくるものがあるし、普段感情を表に出さないトニー・レオンタン・ウェイの唄に思わず涙する場面も感動的だ。話題のセックスシーンだって、本番なのかどうかは知らないけど、結構頑張ってる。特に省略前の二人の体の形が審美的になるよう工夫してるのも分かる。けどせめてここだけでも『2046』(ウォン・カーウェイ)のトニー・レオンチャン・ツィイーの絡みを、引き伸ばしたかのような狂おしい場面になっていたらよかったのに。と強く思う。憂鬱を官能に変えてくれるような傷痕は胸に残らなかった。菊地さんはこの映画どう思うのだろう。題材がドンピシャ好みだっただけに残念だ。