『マジック・ランタン・サイクル』(ケネス・アンガー)


BLANK MUSEUM@原美術館にて実験映画作家であり奇書『ハリウッド・バビロン』の著者ケネス・アンガーのライフワーク『マジック・ランタン・サイクル』全作上映+2。全作上映ということで楽しみにしていたのだけど5つのブースに分かれて同じ時間帯で上映×2回、ということで2つのブースしか回れないのは非常に残念だった。とはいえホワイトキューブの壁への投射&床に座って体験という特殊な上映環境が手伝ってか、なかなか楽しめた。ケネス・アンガーの映画作品といえば、イメフォの学校に短期で通っていたとき、『花火』や『スコルピオ・ライジング』の上映があって、当時受けた鮮烈な記憶が未だ強く残っている。



さて、今回体験できた作品は5作品。一本目『人造の水』は初期作品であるにも関わらず、早くもショービジネスの世界の記憶に毒されたアンガーが垣間見える。ジャン・コクトーに絶賛された『花火』は出てくる人物の容姿を除けば、どちらかといえばヨーロピアン(シュールレアリスム)な芸術概念の想像力が強く出ていると思うのだけど、こちらはサイレント映画の記憶を感じさせる、という意味で両者のエクレクティックな作品といえるだろう。『花火』と正反対ともいえる水の噴射がアップになり、水の女王が笑うとき、『ハリウッド・バビロン2』に掲載された、『真夏の夜の夢』出演時の幼少期アンガーのスチールを思い出す。意外や古典的に美しい作品。



『我が悪魔の兄弟の呪文』はミック・ジャガーが音楽を担当したタイトル通り呪術的、悪魔的作品。右の図のようにケネス・アンガーすらもオプ・アートからサイケデリック・アートへの流れを体現していたことが伺える。また同時に『花火』ではあくまで「私性」に向かっていた男性の肉体が社会性に曝されていることが興味深い。登場人物が繰り返しマリファナを回す間に、ロックバンドの演奏映像やベトナムを降りる兵士、猫、骸骨、タトゥーがインサートされる。この作品が未来のPVに果たした影響は計り知れないと思うし、未だにこれがその最高峰なんじゃないかなと思う。単純にカッコいい!同系列にある『快楽園の創造』(一番上の画像)は作家アナイス・ニンも出演している比較的長めの作品。宝石を喰らう悪魔たちの呪術的映像が38分間延々に続く。「お腹を宝石でパンパンにしたご婦人たち」という素敵な言葉を思い出すも、さすがにちと疲れが。



映画上映後は右図(携帯で撮影)のようにキノコのようなミラーボールがくるくる回った庭でジム・オルーク灰野敬二の共演ライブ。灰野敬二のハーディ・ガーディ演奏をジムさんのギターが追走したり並走したり別の道に逸れたりという緊張がなかなか面白かった。ジムさん、ギターをドラムのブラシみたいので叩いたり、ヴァイオリンの弓みたいのでギコギコしたり、スパニッシュ・ギターみたいな早弾きが全然それとは聞こえない音になってたり。音の形が鋭利ではなく丸いノイズが、ときどき電子音みたいに聞こえるのが興味深かった。完全アナログ演奏なのに。野外演奏の空気も気持ちよくて、ジムさん、オモロ、と思ったライブでした。


追記*『快楽園の創造』は音楽クレジットにミック・ジャガーとありますが、これ本当かどうか怪しいです。インダストリアルな音楽。たしかにミック・ジャガーは出てきますが。確かめる必要あり。