イザベル・ユペール&アッバス・キアロスタミ対談

http://www.lesinrocks.com/2012/10/26/cinema/abbas-kiarostami-et-isabelle-huppert-conversation-sur-le-pays-du-cinema-11314842/
この対談はキアロスタミがユペールとの出会いを語るところから始まります。キアロスタミはイランの若い映画作家2人を連れてカンヌで『レースを編む女』(クロード・ゴレッタ)を見たんだとか。映画を見た後、何も話せなくなったそうです。「イザベルの顔が深く胸に刻まれ、頭から離れなかった」と語っています。数年後モスクワの映画祭でユペールを見かけたキアロスタミペルシャ語で挨拶をします。このときはユペールが状況を理解できず、二人は擦れ違うことになります。さらに数年後ユペールの出演作のポスターの前を通りかかったキアロスタミは、そこでやっと『レースを編む女』の女優の名前を覚えます。さらに数年後、リュミエール兄弟についての短編(オムニバス『リュミエールと仲間たち』)を撮ったキアロスタミはユペールにオフの声の担当をしてくれないかと話を持ちかけます。ユペールは自宅のベッドで寝転びながら電話でキアロスタミと録音したこのときのエピソードを、とてもシュールな光景だったと振り返ります。またキアロスタミヴェネチア映画祭で『ホワイト・マテリアル』(クレール・ドゥニ)を見て大変感銘を受けたと。演じられた役柄だということを忘れたぐらい、ユペールの存在に強烈な印象を受けたと賞賛しています。←『ホワイト・マテリアル』の大ファンなので嬉しいです!


ユペールは『ライク・サムワン・イン・ラブ』が大好きだとキアロスタミに賛辞を贈ります。この作品では誰が話しているのか分からない。ここでは身体と声(音声)が一致していない。特にファーストシーンの透き通った鏡の反射を使った映画の遊戯に眩惑させられました、と。ここでユペールはキアロスタミに映画の中で車で旅をすることについての質問をします。ここからのキアロスタミの返答はとても興味深く、読みながらキアロスタミの映画の秘密に迫るようなスリルさえ感じました。「車の中は親密なスペースなんです。話を遮断するような余計なものがないのです。」。特に次のラインはキアロスタミの映画を考えるとき、もの凄く重要なことを言ってると思います。個人的に鳥肌が立ってしまった内容です。人が横に並んで話す会話は、顔と顔を向け合う以上に、より核心に迫れる。そこではお互いの視線が別の方向に向けられている。同じ場所に一緒にいるのに視界だけが一致しない。ただそれを見つめるカメラだけがフィックス(固定)で撮られている(!)。なるほど、これは実にキアロスタミらしい!


ユペールの選ぶ仕事の多国籍ぶり(直近の仕事でもホン・サンス、ブリランテ・メンドーサの作品に出演している)が、ゴダールの言うところの「映画の持つ無国籍性」に関連付けられます。ユペールはこれに完全に同意すると。旅をすること、常に動き続けることの楽しさを語ります。キアロスタミゴダールの意見に同意します。ただアメリカに関しては事情が違う、と。ここからユペールがマイケル・チミノとの『天国の門』の仕事を回想します。チミノはハリウッドのシステムにパーソナルな姿勢で反抗したと。チミノがあの素晴らしい映画に全人生を賭けて失敗した一部始終その全てを私は目撃したのです、と語っています。キアロスタミはシステムの外にいるジム・ジャームッシュの方法を例に挙げ、もしアメリカで映画を撮るなら、ああいうやり方がいいと語っています。


キアロスタミは次回作について。スクリプト自体は大体いつも2週間で書き上げると。イタリアで撮る事になりそうで、いま95歳の女優を探しているそうです。それを聞いたユペールは「95歳になるまで待って!」と懇願し、キアロスタミが「オーケー!40年待つよ!」と笑い合って、インタビューは終了。楽しいね。キアロスタミとユペールの映画、絶対に見たい!実現熱望!


追記*『レースを編む女』(クロード・ゴレッタ)について書いた記事。
http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20110609


http://kunstundfilm.de/2012/12/abbas-kiarostami-stille-und-bewegte-bilder/
思いのほか長くなってしまったので今回はキアロスタミ特集ということで。現在ドイツで開かれているアッバス・キアロスタミの写真展「Stille und bewegte Bilder」。12枚の写真がアップされています。「道とは存在であり、風であり、歌であり、旅であり、そして不穏である」(『ロード・オブ・キアロスタミ』より)。以下は記事にも出てきた『リュミエールと仲間たち』のキアロスタミ&ユペール編。ではまた次回。


Abbas Kiarostami - Lumière and Company (1995)