2012年ベスト 30枚+α 〜音楽編〜

1.Wild Nothing『Nocturne』

Nocturne

Nocturne

Gemini

Gemini

一昨年はWar Paint(現在一番好きなバンドです)、去年はRazikaとギャルバンが年間ベストになる年が続いたけど、今年はWild Nothingで。彼らもまたネオン・インディアンとは違う方法で幻想としてのエイティーズ(記憶2:妄想8)を生きている。ある時代のあるキラメキ=私的な一瞬の思い出が、経年と共に作り替えられている。たとえば80年代、子供のころ車の中で流れていた音楽は何だったか?過ぎ去りながら少しずつ変化していく記憶に向かい合うことで、再度キラメキを一から作り直そうとする試みのように思える。その感覚は個人的にすごく共有できる。極私的な普遍性というか。ホントによく聴いたな。1stも辿って聴いたけど、既にコンセプトをハッキリ打ち出していた。新譜はより洗練されている。泣ける。これが今年のベスト。
2.Gaslamp Killer『Breakthrough』
Breakthrough (BFCD033)

Breakthrough (BFCD033)

ガスランプキラーのことはずっと気にかけていたけど、変態的なビートの競い合い(フライング・ロータスはそこから下りたね)とはまったく無縁のところで、これだけ変質的なアルバムを作ったことに感銘。ガスランプキラーの場合、頭で作った感じが稀薄。すっごいフィジカルなんだ。この人、まったく先が読めません。HIPHOP界のアリエル・ピンク?さすがです。
3.Ab-Soul『Control System』
Control System [Explicit]

Control System [Explicit]

寵児ケンドリック・ラマーをフィーチャリングしたマドンナ"Live To Tell"使いの曲がフェイバリット。ジェームズ・フォーリーの映画『ロンリー・ブラッド』を思い出す。あの霧の中に潜むような強烈な痛みをこの曲に感じる。ライミングのリズムがとても切迫していて、実際のスピードより体感としては速く聴こえるんだ。エモーショナル。どんどん痛みが迫ってくる。トラックも面白い。
4.DCPRG『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』
タイトル未定

タイトル未定

Simi-labとのライブ、燃えた。めちゃくちゃ楽しかった。新生DCPRG、サイコー!以下、以前書いたSTUDIO COASTのライブ記事→ http://d.hatena.ne.jp/maplecat-eve/20120412
5.Tom The Lion『The Adventures of Tom The Lion』

パッション・ピットとかとも共振しつつ、どちらかというとよりシンガーソングライター寄りであり、ソウルフルな側面を持つトム・ザ・ライオン。ラフ・トレードのアルバム・オブ・ザ・マンスにも選ばれたらしいこのアーティストについて全く情報を持ってないのだけど、去年からずっと繰り返して聴いてる一枚だ。ロンドン経由のソウルというか、スタイル・カウンシルのセンスをベッドルーム的に展開している、というか。トラックがキラキラしてる。
6.Twin Sisters『In Heaven』
In Heaven

In Heaven

去年の作品なのだけど、あるとき、ふいに音像が迫ってきたので。ファーストインプレッションが「カーディガンズみたいだ」、なんて完全に思い過ごしだった。メンバーがピアニカとそこら辺の雑貨を叩いて演奏する映像がYoutubeで見れるのだけど、彼女たちの面白さは、発声を含めた音の”伸び”にあるのだな。各音の伸び方がスピリチュアルに混合し合って、やがてサイケデリックなマーブルな模様に転じていく。その模様のなんと愛らしいことか。「Space Babe」がフェイバリット。
7.Actress『R.I.P.
R.I.P.

R.I.P.

孤高のアンビエント。と言いたいところだけど、この作品をめぐる言説に反して、決して小難しい作品ではない。結構、チャーミングな表情をしたアルバムだと思うんだよね。リズムの弱さが際立っている。という言葉を褒め言葉として使えるなんて。リズムを前面に持ってくる曲でさえ、リズムは埋没していく。その弱さが美しい。今年を代表するアルバム。
8.Ty Segall & White Fence『Hair』

今年はなんと3枚もリリースしたガレージサイケ、Ty Segall。「ファズ・ウォー」という曲名があるのだけど、これほど彼の奏でる音像とマッチしたタイトルはない。このアルバムは最初の一枚。よりサイケデリック方面に振り切れている。加速したり減速したりぐわんぐわんですよ。ガレージ色をより前面に押し出したバンド名義の『Slaughterhouse』。ポテンシャルを詰め込んだ『Twins』。いずれもフェイバリット。あと危うく書き忘れるところだったけど、Thee Oh Seesの新譜は極上のガレージ一辺倒ではないんだな、と再確認。ヴェルベッツのようなこともできる。シングルコレクションを聴いて分かっていたことだけど、これは面白かった。
Twins

Twins

Slaughterhouse

Slaughterhouse

Putrifiers II

Putrifiers II

9.Peaking Lights『Lucifer』
Lucifer

Lucifer

前作は去年のベストアルバムと言っても過言ではなかったけど、ややエレクトリックなアレンジも効果的なこの新譜も引き続き素晴らしい出来。サウンドは全く違うけどYMOの1stのような楽しさを感じる。"Live Love"、"Dream Beat"が出色。
10.Frankie Rose『Interstellar』
インターステラー(INTERSTELLER) (帯ライナー仕様国内盤)

インターステラー(INTERSTELLER) (帯ライナー仕様国内盤)

大好きなヴィヴィアンガールズが、元から才能ある女子たちの集団だったことが判明。元ヴィヴィアンガールズの彼女が奏でる音は、タイトルどおり、スペイシーな音空間を紡ぐ。とはいえよく聴くと徐々に、ケイティのLa SeraがDIY精神のソフトロックを奏でるのと、どこか共鳴している気がする。ヴィヴィアンガールズはただのガレージバンドじゃないよ!
11.Lulu Gainsbourg『From Gainsbourg To Lulu』
From Gainsbourg to Lulu

From Gainsbourg to Lulu

セルジュの息子ルルのデビュー作。ジョニー・デップまで参加する超豪華客演陣だけど、ここではルルの繊細且つ緻密な音設計、幅の広いアレンジ、音の響きに激しく身を正される。セルジュの曲をこうやって多様な音楽的バックグラウンドを持った仕様で現代的に引き継ぐ態度こそが、真のトリビュートであることは言うまでもない。とにかく響きが豊か。ルルの才能はすでに約束されている。
12.Cat Power『Sun』
Sun

Sun

キャットパワーの姉貴、待望の新作にして最高傑作。エレクトリックの要素を取り入れて〜と、そんな聴く前の不安は一聴で払拭。見事な折衷ぶり。彼女はやはり背筋に一本、芯が通っているからね。何をやってもぶれないのだろう。
13.The Men『Open Your Heart』
Open Your Heart

Open Your Heart

ジャパンドロイズと並列して語られているけど、個人的にはザ・メンの方が好き。ハードコアの機能性をソニックユースお家芸みたいに昇華した曲や、剛だけではない柔なメロディ感のある側面が面白い。Metzのグランジというか『ネヴァーマインド』以前なニルヴァーナぶりにも強く惹かれた。
Metz

Metz

14.El-P『Cancer for Cure』
Cancer for Cure

Cancer for Cure

正直エルPを久々に聴いたのだけど、びっくりした。これは、お、おもしろい!インディーロック好きに大きくアピールするアルバム。結果的にHIPHOPの楽しさやいかがわしさが前面に出ている。エルPはパンクスだね。プロデュース作品、キラー・マイクのアルバムもよかった。
R.a.P. Music

R.a.P. Music

15.Ariel Pink's Haunted Grafitti『Mature Themes』
Mature Themes

Mature Themes

いったいどういう思考回路でこういう接続をするのだ、というアリエルの素晴らしい新作。優等生とはほど遠いサウンドはもう人生としかいいようがないね。機能性がない、ということは、こんなに素晴らしいことか。このアルバムを聴いたせいで、ダーティー・プロジェクターズの新譜のハイセンスぶりに唸った自分が正直完全にふっとんでしまった(ダーティープロジェクターズが駄目ということではない)。
16.小泉今日子『Koizumi Chansonnier』
Koizumi Chansonnier(初回盤)

Koizumi Chansonnier(初回盤)

傑作。このアルバムのテーマは小泉今日子の人生=シャンソン。人生がそうであるようにシャンソンには”解”がない。菊地成孔との「大人の唄」と「シャンソン」が最近は特別に好き。歌い続ける理由を問われ、「応援してくれたファンの方の青春に責任を取りたい」と言っていたキョンキョン。−−−子守唄覚えてるかな?だから歌う、これは大人、これは大人の唄−−−泣けます、、。
17.Ital『Hive Mind』
Hive Mind

Hive Mind

早速ダブステップという言葉とは関係のないアイタルの、音の滲み具合に痺れた。ホイットニーが遠くで永遠の愛を歌い、レディガガがそれを痙攣的にチョップされた音声で否定する。相反する感情が一つの楽曲の中で滲むように、且つ、反マッシュアップのエレガントさ(とっても上品なのだ)で奏でられる。
Dream On

Dream On

18.Metronomy『Late Night Tales -Metronomy-』
Late Night Tales -Metronomy- (ALNCD29)

Late Night Tales -Metronomy- (ALNCD29)

メトロノミーの音楽がどんな要素で出来ているかというのが丸分かり、メトロノミーの秘密に迫れるとても親切なコンピ。シリーズ中、屈指の作品になったと思う。チック・コリアとか入ってるんだけど、こういう風に使うか!という新鮮な解釈。完全にメトロノミーのサウンドになっている。さすがです。メトロノミーはセンスがスーパーだ。リミックスアルバムもよかった。
19.The XX『Coexist』
Coexist [輸入盤CD](YT080CD)

Coexist [輸入盤CD](YT080CD)

聴いている間は極度に研ぎ澄まされた寸劇のような音の出方、消え方、その達人芸に唸りっ放しなんだけど、不思議なくらい一曲も記憶に残らないというね。アンチポップを進化させている(そこが評価の分かれ目になっている)。つまり音が鳴っている間だけ、The XXは存在する。モノ凄いと思った。こんなことが出来るのはもはや孤高の領域だ。アンファンテリブル。真に恐るべき子供たち
20.Moodymann『Picture This』

ムーディーマンの新しいアルバムはQ-Tipがカマール・ジ・アブストラクト名義で発表したアルバムと何処か共鳴している。マイルス・デイヴィスの精神性というか。漆黒のハウスを経由して”ブラックミュージック”という得体の知れない大きすぎる音楽に姿勢が向けられている。だからこの地下から鳴らされるアルバムは、ハウスであり、HIPHOPであり、ソウルであり、ファンクであり、ジャズであり、そしてゴスペル/ブルースだ。けっこうビックリした。
21.八代亜紀『夜のアルバム』
夜のアルバム

夜のアルバム

八代亜紀の濃厚なブルースに引っ張られるように、小西さんのプロデュースが自分の色(コドモ=オトナ感)を排除してガチで対象に向かっている素晴らしく大人なアルバム。所謂クラブで”使える”曲とかはないのだよ。夏木マリとの仕事でさえ、コドモ=オトナなアルバムだったのに。八代亜紀へのすっごい丁寧なサポート。個人的には小西さんのベストプロデュース作品だと思う。ジャズというより歌謡ブルース。濃厚な。こういう大人の音の嗜み方ってたまらなく素敵だ。
22.The Chromatics『Kill For Love』
Kill for Love

Kill for Love

このジャケット通りの音像。一つ一つの音の残像が耽美的な広がりをみせる。ここではエイティーズの記憶はより抽象性を増している。結果的にインディーロック側からのジェイムス・ブレイクへの回答になっている。"The Page"をよく聴いた。傑作。
23.Crystal Castles『III』
III

III

これも音の滲み方がたまらなく好きだった。キンキンパンキッシュな女子ボーカルがシューゲイザーのように遠くに退いたクリスタル・キャッスルズの新譜。声とトラックが主張せずに音として滲み合っている。調和に向かうことが彼岸へ向かうことと同じ意味を持つ。こんなにエレクトリークなパンクなのに。大好き。
24.Disco Inferno『5 Eps』
5 Eps

5 Eps

MGMTの『Late Night Tales』経由で聴いたのだけど、とっても素晴らしいね。楽曲のレンジも広い。重なり合うギターの絡みのキラキラがこの上なく美しい曲もあれば、めっちゃサイケデリックにトバす曲もある。かと思えばパーティーの終わりにぴったりのチルチルな曲もあったり。
25.Dr.John『Locked Down』
Locked Down

Locked Down

ブラックキーズはこちらのプロデュース作品の方がずっと素晴らしいと思う。ヴィンテージなトーンを遥かに上回ってしまう強烈な年輪力に圧倒される。
26.Tennis『Young & Old』
Young & Old

Young & Old

まずとにかく声がキュート。走り出すオルガン。このジャケット。エバーグリーンですな。
27.John Maus『Collection of Rarities & Previously』
Collection of Rarities & Previously

Collection of Rarities & Previously

元アリエル・ピンクの未発表音源集。去年出たアルバムもいまだに愛聴してる。クオリティーはさすがに下がるけど、とても興味深い習作集。彼、どこかの大学の教授らしいのだけど、さすが元アリエル。パラノイア抱えすぎでしょ。こんな教授はいやだ(笑)。
28.joey bada$$『1999』

17歳で発表したミックステープ。トラックの黄金時代感がハンパなく、MF DOOMがプロデュースした「World Domination」とか、とってもお洒落。逆に新鮮だった。ライトなHIPHOP好きなので、まったく追いついてないんだけど、どんどん出てきますね。来年出るA$AP Rockyの新譜が楽しみでならない。去年出たミックステープは個人的に圧倒的にフレッシュだった。


29.くるり坩堝の電圧

坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)(初回限定盤B:DVD付き)

坩堝の電圧(るつぼのぼるつ)(初回限定盤B:DVD付き)

新生くるりにこんなに驚かされるとは。なんといってもファンファンの加入が面白い。くるりの音楽が深みを増してるのはポップミュージックの歴史に対峙したときの解釈・再解釈の代謝の良さなんだろね。で、やっぱ変なんですよ、この人たち(岸田くん)は。やはり『図鑑』と『THE WORLD IS MINE』の2枚がフェイバリットなのだけど、このアルバムはのちのち思い返して聴くことになりそう。新生くるり、面白い。
30.Tame Impala『Lonerism』
Lonerism

Lonerism

日本でもブレイクスルーしたみたいですね。おめでとう。リップス方面に振れているけど、このほとんど異様ともいえる演奏力の高さが独自のサイケデリアを生む。ライブを見てみたい!
+α.マーライオン『日常』
日常

日常

ギターを爪弾きながらタメを効かせているはずなのにズッコケなタイミングで再度歌に入るマーライオンとは、ツッコミを待っているのに待ちきれずに自爆してしまう自演家だ。ドン引きと共に爆笑される様は、天然なのかどうかさえ怪しまれる。楽しませてもらいました。キャベツの千切りの無手勝流ギターは素晴らしい。ちなみにかまってちゃんの子がコメントを寄せています。


ほか、山下達郎松任谷由美のベストはすごい聴いた。ユーミンとかバブル期の音源をいままであんまりちゃんと聴いてこなかったけど、むしろバブル期よいね。バブルとスキーとロマンスって最高じゃないですか。”ブリザード”、サイコー。バブル期のスキー場とか、夜になるとディスコになったんだぜって完全に狂ってるでしょ。そのすべてが心から愛しい。胸キュンです。

OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜(初回限定盤)

OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜(初回限定盤)


曲単位ではいっぱいあるけどソランジュ”Loosing You"をよく聴きました。初期マドンナじゃないか。最高。お姉さん(ビヨンセ)より好きだな。

Losing You [Analog]

Losing You [Analog]

Solange"Loosing You"

Wild Nothing"Nocturne"