『ダンディ』(クロード・シャブロル/1961)


クロード・シャブロル特集。続いては前年の傑作『気のいい女たち』に続いてベルナデット・ラフォンと組んだ『ダンディ』。ゴダールが「(パリ)解放後のフランス映画ベスト6」にも選んでいる本作の奔放な活劇ぶりに心底痺れている。シャブロルがこんなにもアナーキーに才気走った映画を撮っていたということのオドロキ。たとえば山頂へ向かうリフトに立ちながらキスをする男女のショットなんて、スコリモフスキの初期作品並に過激でロマンティックだ。『気のいい女たち』への無理解がシャブロルの破壊衝動に火を点けてしまったのだろうか?1959年から一年ごとに生み出された『いとこ同志』、『気のいい女たち』、『ダンディ』。いずれも問答無用の傑作だが、瑞々しさの順でいうなら逆である。ジャン=クロード・ブリアリの破壊、それ以上に過激なベルナデット・ラフォンの身体性。ここでのラフォンはジャンヌ・モローが被ることになる「悪女」のレッテルの比ではないように思われる。ラフォンは恋人のシャルル・ベルモンにこう呟く。「わたしが怖いの?」


爆走する車のファーストショットからよく知ったシャブロルの映画とどこかが違うと感じていた。ベルナデット・ラフォンの登場の仕方がまた狂っていて、街を歩いていた彼女は少年たちに無理矢理車に詰め込まれる。が、強引なナンパ(または拉致)を平然と楽しんでしまえる、というところが彼女のキャラクターだ。ラフォンのほとんど後先考えない無邪気な運動と、ブリアリのブルジョアへの”気取った”悪意、ベルモンの弱さを含んだ不良性が手を結んだとき、爆発は起こる。三人が最初に手を組む騒動はアクション・ペインティングの展覧会。ここでのパイ投げ合戦のようなハチャメチャぶりが終盤まで繰り広げられる(実際にはそうではないのだけど、画面の尋常ならざるテンションからそう思わされてしまう)。金持ちのブリアリはパーティーを開いては集めたブルジョアたちを痛烈なユーモアで糾弾する。ほとんど道化に徹しているように見えるそのブリアリが「生まれてはじめて悲しい気分だ」と呟くとき、その言葉がまったくの空洞であること、感情がないということに、こちらの感情は掻き立てられる。そのとき、あのパイ投げ合戦のパイが『恐るべき子供たち』(メルヴィルコクトー)の雪合戦、雪の玉と重なって見えたのは気のせいだろうか。雪の玉には血が滲んでいたよね。


空洞が決意(”ぼくらが旅に出る理由”)を呼び、また新たな空洞を得る。アメリカへと旅立つベルナデット・ラフォンを追った港のロングショットに痺れた!


追記*この翌年には『悪意の眼』、次の年に『青髭』と続くことを考えると、『ダンディ』で既にシャブロルは第1期(若さ)に決着を着けているのだよね。この時期の傑作連発のフィルモグラフィーも恐ろしいけど、シャブロル自身の”船出”もラフォンの旅立ちと重なって恐ろしい。


追記2*尚、ゴダールが選んだ6本(1965年の時点)は『快楽』(マックス・オフュルス)、『人間ピラミッド』(ジャン・ルーシュ)、『オルフェの遺言』(ジャン・コクトー)、『コルドリエ博士の遺言』(ジャン・ルノワール)、『スリ』(ロベール・ブレッソン)、『ダンディ』(シャブロル)です。