ぺぺ・トルメント・アスカラール@恵比寿リキッドルーム

ゴダール生誕80年を祝う生誕5周年のぺぺ、ということで恵比寿リキッドに行ってきました。口ロロのDJが終わってゲストで出演のDE DE MOUSEのバンドセットが異様にテンション高くフロアが温まったところでDJ菊地成孔が登場。序盤のアンチダンス=脳内ダンスな展開に、ゴダール映画のミュジーみたいだなーと思っていたところ、締めはアフロパーカッションに落語や演歌をミックス、時折入るスクラッチがいやはやオールドスクーラーだね〜。で、そのままぺぺのライブセットに。「導入」〜「はなればなれに」〜「バターフィールド8のテーマ」と続く今回のぺぺは完全に集大成的な趣きがあった。そして今まで体験したぺぺの中でもベストと言いたいパフォーマンスが披露された。


個人的に一番感じ入ったのは「即興」というテーマ。『記憶喪失学』収録の「大天使のように」における、どの楽器にリズムを合わせて踊ればいいのか分からなくなるズレるタイム感(少なくともぺぺの楽曲におけるリズム、タイム感とは単純にリズム隊だけのものではない)のなかに、ピアノを打楽器のように弾くブルージーでありつつビッグバンド的な、つまりリンディーホッピングで踊れるようなハッピーなフレーズが入ってきたり、菊地成孔のアルトサックスにどこかで聞いたことあるような懐かしいフレーズが突如入って来て、ふとそれがアイラーのフレーズに似ていると気づいたとき、100年前の記憶と1000年後の記憶は同時に襲い掛かる。「ジャズ来るべきもの」。


序盤のラテン・オーケストラルな静かな狂気の展開から狂乱のクラブモードへ一気に突破するきっかけが林正子さんの登場だった。このリキッドの同じステージで5年前はカヒミさんが唄い、その5年後に林正子さんが唄っている。線の細く鋭いアルトサックスが即興でエロティックに描写するのは1000年後への現在の記憶だろうか。「Killing Time」の絨毯爆撃の如く襲い掛かる即興集団ノイズはその凶暴さにおいて最高値を記録した。これぞヘル・ソニック・バレエ!そして「ルペ・ペレスの葬儀」の死の淵から絞り取られたような官能の音の粒〜「81/2」の記憶の走馬灯へ。一瞬身が軽くなって泣き落ちそうになってしまったよ。


アンコールでは「ボサノヴァ創始者アントニオ・カルロス・ジョビンは自分がどうしたらいいか分からないノイローゼぎみの青年でした。そのジョビンを呼んで彼の才能を開花させたのがハダムス・ニャタリです」の紹介が素敵だった。あと「いまここにいる人たちが私の理解者のすべてです」はジョークの中の言葉で、決して言葉通りのニュアンスで使われたわけではないのだけど、いい言葉だと思った。年末はカヒミさん呼んじゃおう。


前回はオシャレ男子率の多さにビビッたけど今回はオシャレ女子率の方が若干高かった。みんな素敵です。ちなみに「100年」といえば夏目漱石、「1000年」といえば小沢健二、億単位になると萩尾望都を個人的に連想してしまいます。1000年後の南米のエリザベス・テイラー。1000年後のパリのエリザベス・テイラー