『死者たち』(リサンドロ・アロンソ/2004)


輸入DVDでリサンドロ・アロンソリサンドロ・アロンソはアルゼンチンの新進作家(34歳)。08年のベストとの呼び声も高い『リバプール』は、昨年のカンヌ国際映画祭監督週間などで上映されています。カンヌにはデビュー作『La libertad』以来、全作品が招待されているらしいです。本当は赤坂大輔氏の批評でも触れられた『リバプール』のDVDを探していたのですが、サーチ力不足か南米のオンラインショップでしか見つからなくて、送料含めたらかなり高価になってしまう為、北米盤かフランス盤DVDの発売を待とうかな、というところです。五輪もリオに決まったし南米の時代到来?なら大歓迎!


刺激的なファーストショット。ジャングルの中、ピントの合わない近視の視線がフラフラと彷徨う。木漏れ日の美しいこの近視のカメラ(亡霊の視線と思われる)が、やがてうつ伏せになった裸の死体を捉える。ここで視線が止まるでもなく、殊更注視する素振りすらなく、カメラは彷徨い続ける。するとその先に、もう一つの死体、さらにはサーベルを持った片手が画面の端をチラりと通り過ぎる(←すべてワンショット長回し)。画面はジャングルの緑へとアウトしていく。



刑務所を出ることになったバルガスという名の男が囚人仲間から手紙を託される。囚人の娘マリアに宛てた手紙。解放されたバルガスは町で”娘”に贈るキャンディーとブラウスを買い、娼婦を抱く。肌と肌がぶつかる音が生々しく響き渡る。バルガスは墓場を通り抜けて船着場に辿り着く。ここからマリアが用意したというカヌーで大河を下る旅が始まる。大河を「あの世」とするならば墓場を経由しなければならない。墓に生けられた美しい花が印象に残る。船着場で待つ男(=門番?)との会話、「兄弟を殺したんだって?」「すべて忘れちまったよ」。


カヌーの浮遊感と共に視覚と聴覚は大自然にジャックされる。この現実感のない旅の道中、バルガスのアクションと自然のサウンドに急激な生々しさが宿る。カヌーを止めては蜂蜜を採りにいくバルガスの、子山羊を捕まえては内臓を取り去るバルガスの、手馴れた手付き(すべてワンショットのアクションで捉えられる)と其処で発せられる音が地味に効いている。ジム・ジャームッシュ『デッドマン』への南米からのアンサーのようだと一瞬思う。『デッドマン』における二ール・ヤングの残響が、自然の一音一音が作り出すオーケストラに替わったような趣き。マリアへの任務を終え、今度は自身の娘オルガに会いに、バルガスは再度大河を下る。「オルガは僕のママだ」と語る少年の出現、カメラはバルガスと少年らとのやりとりを避けるかのように地面に向けられ(音だけが聴こえる)、けたたましい轟音が響き渡る。残響が画面を輪廻させる。恐ろしい!


撮影が凄まじく、非常に興味深い作品でした。IMdbに『死者たち』はカルロス・レイガダスの『ハポン』と近似性があるとの感想もありました。行きますよ。楽しみだなー。