『デス・ルーム』(2006)

デス・ルーム スペシャル・エディション [DVD]

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モンテ・ヘルマンジョー・ダンテ、他によるオムニバス作品。オムニバス作品というとトータルとしての作品の質はあまり期待できないものですが、本作は1話完結型ではなく、一つの物語の中のエピソード(各人が語る恐い話)を各作家が務めるという変則オムニバス形式のせいか、作品としてのトータル性があって悪くない。「ハリウッドの夢の跡」を巡るツアーという設定が効いている。ちょっとワイドショーちっくというか「ハリウッド・バビロン」を想起させるとこがある。


なかでも面白いのはジョー・ダンテ篇とモンテ・ヘルマン篇。ジョー・ダンテ篇は売れない女優が豊胸手術に踏み切った病院で、シリコンではなく人の死体の肉・皮を埋める、というグロテスク極まる描写に思わず目を覆う(この手術シーンにおける切開は洒落にならない。痛すぎます!)。見事ハリウッドで成功を掴んだ女優は、恋人との性交の最中、ある異変に気付く。豊胸した胸が独自の意思を持ち生きているのだ、というお話。女優が怪物と「共同生活」を送るグロテスクなユーモア溢れるラストの造形ぶりにダンテらしさを感じる佳作。


モンテ・ヘルマン篇は大変に興味深い。というのもこの伝説的作家がリチャード・フライシャースタンリー・キューブリックを追悼しているからで、”『絞殺魔』を撮った映画作家”レオと、”初期に競馬の映画を撮った”友人スタンリーが、一人の素性の知れぬ女性との肉欲に溺れるという物語。二人が出て行く街の映画館では『THE KILLER IS LOOSE』(バッド・ベティカー)『CRIME WAVE』(アンドレ・ド・トス)がかかっていたり、とこの作品自体が50年代作家に捧げられている。ホラー度数は低めですが、スタンリーの恋人とレオが初めて愛し合うシーンがなかなか古典的なほどに、粋で面白い。二人がキスへ向かう予感ありありのシーンで、レオが「チェスは本能に従うことだ、同時に感情を抑えることだ」と1フェイク入れることで抑制された熱情が雪崩のように画面を満たす。レオは女性との性交の最中、爪で胸元を傷つけられる。やがてスタンリーの遺した個人フィルムを一人見る老境のレオは、あの女性が映画創世記のフィルムに登場していた女優だということを知る。


日本ロケ(?)のケン・ラッセル篇は「怪物/エキゾとしての日本人」に一瞬面白さを感じさせるものの、いかがわしくて好きそうな世界ながら描写が下品でノレない。いつの間にか先週末から公開されているバーベット・シュローダーの『陰獣』がこんなだったら嫌だなー。シアターN渋谷でレイトショー公開中だそうです。
http://www.finefilms.co.jp/inju/