『ワンダ』(バーバラ・ローデン/1971)


日仏学院にてエリア・カザンの妻、女優バーバラ・ローデンの『ワンダ』。マルグリット・デュラスジャック・ドワイヨン(生涯の一本)が絶賛し、イザベル・ユペールが版権を買い取ったという固有名詞の羅列からも明らかなように神話化されている作品。丘の上へゆっくりと歩むバーバラ・ローデンを捉えたロングショットから期待が膨らむ。しかしこの映画はここから私たちの知っている「映画」のフォルムから奇妙に逸脱していく。デュラスの言うように演出と演技の距離がまるで消失してしまったかのような近さ、主人公ワンダ=バーバラ・ローデンの存在そのものが孤独な影に彩られたかのように表出するラストショットは残酷なくらい美しい。能動的に何かをするでもなく行き当たりばったり流れるがままに、出会ったバーテン(マイケル・ヒギンス)と車に乗って旅をする、果ては銀行強盗、マイケル・ヒギンスがいやらしく触るバーバラ・ローデンの足の細さ(本当に触れれば折れてしまいそうなほど細い!)、その華奢な体が作品の浮遊感と相俟って、一人の女性のまさに「さすらう」ようなロードムービー、かといってアメリカ映画でもフランス映画でもない真にオルタナティヴな作品という印象を受けた。このままカメラに突っ込むんじゃないか?というくらい勢いのよい警察の到着、ことの顚末を経て、再び一人になったワンダが、愉快な音楽と酒盛りが行なわれている小屋の前で所在なさげに佇むショットが長回しで撮られている。なんだこれは!?もう一度見たい。